あの日からの建築 伊東豊雄著 集英社新書
先日、伊東氏の講演会の時に話に出た本を読んでみた。
あの日とは3.11東日本大震災のことである。
前半は震災の状況や復興について書かれている。
後半にこれからの建築の進むべき道が書かれている。
が全体を通して建築家という職業の社会に対する位置付に対する嘆きや戒めを込めた内容となる。
「グローバル経済をベースに据えた現代社会において、私的な空間のみがより経済的価値を持ち
コミュニティーのためのスペースは必要とされない。」
「若い建築家は難しいコンセプトを振りかざして思いっきり表現してデビューしたいと考えている。・・・中略
どういう社会的な提案ができるかという能力を高めなければならない。」
・20世紀の建築は個人の独創性を最も重要な価値に据えてきた。
・抽象という言葉の下で、自然から切り離した地点でモノを考える方法を重視した。
これを見直す必要があるという。
ではこれからの建築の向かうべき方向はどこなのか・・・。
自分なりに解釈てみると。キーワードは「グラデーション」ではないかと思う。
仙台メディアテークや台中で行われた構造解析は通常の柱、梁の構造と違い、より自然に近づく可能性のある
方法であった。また岐阜メディアコスモスで行われているのはメディアテークの構造で行ったことを設備で行い
よりキメの細かい環境設定を行えるということ。コンピューターの発達による細かい解析を
例えば、内と外、熱いと寒いのように分断するのではなく、内から外、熱いから寒いともっと幅のある環境づくり
をするべきではないかということかと理解した。その考えは防潮堤の考え方ともリンクしている。
住宅で言うと
講演会でも言われたいたが「民家」にヒントが有るという。家全体を小さい部屋に区切って、断熱をして自然と分離する
のでは無くて、土間や縁側のように外部に近い空間を設け、断熱スペースを内部に必要量だけ設ける。
うまく言えないが、自然や社会とよりコミットできる方法を模索してゆくことだと理解する。
さてこれからの建築はグローバル経済の大波にこのまま飲み込まれてしまうのか。はたまた震災を教訓として大転換が
起こるのか。こればかりは解らない。
類似本
建築の大転換 伊東豊雄 中沢新一著 筑摩書房
内容はあの日からの建築と共通しているが
人類學所の中沢新一氏の文章が半分を占める。
贈与(ギフト)という考えは宗教よりの話になっている。
藤森照信氏と三者の対談も収められていて面白い。
興味のある方はどうぞ。